自動化できない最後の砦!バナーリサイズというデザインの本質

現代において、AI(人工知能)や自動化ツールの進化は目覚ましく、かつて人間にしかできないとされていた多くの業務が機械に置き換わりつつある。特にデザイン業界でも、CanvaやFigma、Adobe Fireflyなど、AIを活用したデザイン支援ツールが次々と登場し、バナー作成やチラシのレイアウト、画像補正といった業務の一部は自動化されつつある。しかし、そのような時代にあってもなお、「バナーリサイズ」という一見単純に見える作業には、人間にしか成し得ない本質的な判断と感性が存在する。
1. バナーリサイズとは単なるサイズ変更ではない
一般的に「リサイズ」と聞くと、多くの人は単純に画像の縦横の比率を変えることだと考えるかもしれない。しかし、デザイナーの間では「バナーリサイズ」とは、既存のバナーを別のサイズに最適化するという、れっきとした“再設計”の作業である。たとえば、横長のWEBバナーをInstagramストーリー用の縦長フォーマットに変更する場合、単に画像を縮小・拡大するだけでは済まない。
文字の大きさや配置、メインビジュアルの見え方、ボタンの位置、背景とのコントラスト、視線の流れ、キャッチコピーの強調点など、あらゆる要素を「そのサイズにおいて最も伝わりやすい形」に再構成する必要がある。これは単なるトリミングや拡大縮小ではなく、「コンテンツの再構築」とも言える、きわめて創造的かつ繊細な作業である。
2. AIにできるのは「配置の模倣」、人間にできるのは「意図の再設計」
AIツールが得意とするのは、過去の膨大な事例をもとにしたパターンの抽出である。たとえば、「この要素は中央揃えが多い」「この文字サイズはこのくらいが読みやすい」などといった傾向を学習し、一定のルールに基づいた配置を自動で行うことができる。しかし、リサイズされたバナーがどのような媒体に掲載され、どのようなターゲットに向けて、どのタイミングで見られるのかといった「文脈」までは理解していない。
一方、人間のデザイナーは、クライアントの目的、配信チャネルの特性、ターゲットユーザーの感情や行動、さらにはマーケティング上のKPI(例:クリック率、コンバージョン率)に至るまでを加味した上で、デザインの調整を行う。つまり、ただ見た目を整えるのではなく、ユーザーに「どう伝わるか」「どう感じてもらうか」「どの行動につなげるか」までを視野に入れて再構築する。これはまさに人間の思考力と想像力、共感力があってこそ可能な判断である。
3. 微差が大差を生む、リサイズ現場の現実
実際のデザイン現場では、リサイズによって成果が大きく左右されることも珍しくない。ある企業が横長バナーをスマートフォン向けに縦長にリサイズした際、ただ自動変換ツールに任せたところ、重要なキャッチコピーが画面の下に埋もれてしまい、CTR(クリック率)が大幅に下がったという事例がある。そこでデザイナーが介入し、視線の流れを意識してキャッチコピーの位置を上部に移動し、フォントサイズや背景コントラストを調整したところ、クリック率が元に戻るどころか、当初よりも高くなったという。
このように、ほんの数ピクセルの調整や、1行のコピーの配置変更が、広告効果に大きな差を生む世界では、「目の利く」人間デザイナーの存在が不可欠である。
4. ブランドらしさを守るのも人間の役割
企業やブランドによっては、ロゴの扱い方、カラーの使い方、フォントの選定などに厳密なガイドラインがある。だが、そうしたルールもただのマニュアルに過ぎず、実際のデザインに落とし込む際には「空気を読む力」が求められる。たとえば、メインビジュアルが淡いトーンのときには、あえてブランドカラーの赤を使わない方が全体の印象が良くなる場合がある。このような「ガイドラインの運用判断」は、現時点ではAIが最も苦手とする領域だ。
つまり、ブランドイメージや表現の一貫性を維持しつつ、メディアごとに最適化するという、矛盾する要件を高次元で調整するには、人間の感性と判断力が欠かせない。
5. 結論:リサイズは「最小にして最大のデザイン」
リサイズは、最初のデザインをつくるよりも簡単だと誤解されがちだ。しかし実際には、限られたスペースと素材の中で、いかに意図を残し、魅力を再定義するかという、非常に高度なバランス感覚を要する仕事である。しかも、そのリサイズの質が、広告全体のパフォーマンスを左右するという意味で、決して軽視できない工程である。
そう考えると、バナーリサイズは単なる「おまけ作業」ではなく、むしろ「クリエイティブの核心」であり、そしてその核心を支えるのは人間にしか持ち得ない感性と知性なのである。

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